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「希望」と「実体的な関係」−「エヴァとカレカノ」補足−
(まる@「現代アニメ考」:1998年12月26日(修正:2003年12月1日))
「エヴァとカレカノ」については(1)(2)を書きました。その後に、掲示板でもお世話になっており、「アニメのイリアステル」において啓発的な議論をなさっているワタルさんより、私の文章で用いられている「希望」と「実体的な関係」という言葉についての質問がありました。それにはメールでお答えしたのですが、せっかくですので、加筆してここに置くことにします。ワタルさんにも了承は得てあります。
(”ワタル”さんの「アニメのイリアステル」は残念ながら閉鎖されたようなので、リンクを外しました。by まる@「現代アニメ考」 at 2003/12/1)

エヴァにおける「希望」

 ちなみに「希望」は劇場版エヴァ後半の重要キーワードです。どこで「希望」が出てくるのか。会話を引用してみます。

シンジ:「あそこでは...嫌な事しかなかった気がする。だから、きっと逃げ出してもよかったんだ。でも、逃げたところにもいいことはなかった。だって...僕が、いないもの。誰もいないのと同じだもの」
カヲル:「再びATフィールドが、君や他人を傷つけてもいいのかい?」

シンジ:「かまわない...でも、僕の心の中にいる君達は何?」
レイ:「希望なのよ。ヒトは互いに分かり合えるかも知れない...ということの」
カヲル:「好きだ、という言葉とともにね」

シンジ:「だけど、それは見せかけなんだ。自分勝手な思い込みなんだ。祈りみたいなものなんだ。ずっと続くはずないんだ。いつかは裏切られるんだ。...僕を見捨てるんだ。」
シンジ:「でも、僕はもう一度逢いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから。」

 人と人とは分かり合うことはできません。
 お互いに他者同士でありますから。
 ですが、言葉を用い、手を用い、働きかけると「ヒトは互いに分かり合えるかも知れない...ということの」「希望」が見えてくるのです。もちろん分かり合えるなんていうのは「見せかけなんだ。自分勝手な思い込みなん」です。他者同士でありますから。ですが、そうした所詮は分かり合えないということで、

シンジ:「誰も判ってくれないんだ...」
レイ:「何も判っていなかったのね」
シンジ:「イヤな事は何もない、揺らぎのない世界だと思っていた...」
レイ:「他人も自分と同じだと一人で思い込んでいたのね」
シンジ:「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったんだ...」
レイ:「最初から自分の勘違い。勝手な思い込みにすぎないのに」
シンジ:「みんな僕をいらないんだ。だから、みんな死んじゃえ!」
レイ:「でも。その手は何のためにあるの?」
シンジ:「僕がいても、いなくても、誰も同じなんだ。何も変わらない。だからみんな死んじゃえ」
レイ:「でも。その心は何のためにあるの?」
シンジ:「むしろ、いないほうがいいんだ。だから、僕も死んじゃえ!」

 となるシンジではもはやありません。なぜなら、他者との関係を拒絶した世界は辛いものだから(先生の家での記憶)。そしてシンジは逃げずに結局は「ココ」に居座ったわけであります。なぜならば「僕はもう一度逢いたいと思った」から。そう、他者に逢いたいのです。たとえ拒絶されるにしても、そこには「ヒトは互いに分かり合えるかも知れない...ということの」「希望」があるんですから。

 というわけで、人類補完計画をばぶっつぶし、シンジは「希望」のもとでの「関係」のある世界へと回帰するのでした。

 「希望」については以上とします。

カレカノにおける「実体的な関係」

 つぎに、「実体的な関係」に話を移します。

 ワタルさんは「実体」という言葉と「関係」という言葉をくっつけて使うということに違和感を感じておられます。「実体的な関係」とした場合に、違和感が感じられるというのはもっともなことだと思います。なにせ「実体から関係へ」ということが現代思想において言われてきたわけですし。

 従いまして、ここでは私の議論のコンテキスト(文脈)を明示することにします。そうしますならば「実体的な関係」という、思想史からみたらへんてこりんな言葉の違和感が薄れましょう。まずは下手な図示をします。

エヴァ ・・・<関係>アスカとシンジ ←「希望的な関係」
 VS            VS        VS
カレカノ・・・<関係> 宮沢と有馬  ←「実体的な関係」

 ということです。

 「希望」のところと繋がるんですが、アスカとシンジの関係は「ヒトは互いに分かり合えるかも知れない...ということの」「希望」にとどまります。二人は彼氏と彼女の関係に陥るわけではありません。劇場版エヴァの最後の二人の微妙さ(私の文章で書いたところです)はそこんところを上手く表現しているのです。
 他方、カレカノは、二人は「彼氏彼女」になります。「ヒトは互いに分かり合えるかも知れない...ということ」が現実に一応あるわけです(芝姫の指摘の通り、宮沢はまだ有馬のことをわかっていないのかもしれませんが、お互いに仮面をかぶっていた、本当の自分を隠していた、という点におきましては分かり合っているといってよいでしょう)そこに二人は喜びを感じています。まさに関係を享受しているように見受けられます。ということで、「希望的な関係」たるエヴァとの対比におきまして「実体的な関係」があるとしたのでした。




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